
(追加取材企画)シグナル -創業の次のステージに進む合図-
本協会では「がんばる企業のご紹介」を通じて、創業や事業成長に挑戦されている事業者のみなさまをご紹介しています。
今回は、第1回にご登場いただいたかたの“その後”を追加取材しました。
創業初期、コロナ禍をはじめとするさまざまな困難を乗り越え、経営者として新たな視点を得た今。創業者から経営者へと成長を遂げた歩みをお伺いしました。

代表 |
市川 貴司 |
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業種 |
とんかつ料理店 |
住所 |
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ホームページ |
取材日:2025年10月22日
津島市で「とんかつ みな豚」を営んでいます。平成28年の創業から、早いもので9年が経ちました。おかげさまで、最近では口コミをきっかけにテレビ番組の取材を受けることもあり、放映後には予約の電話が鳴りやまないほどの反響をいただいています。中には、「みな豚のとんかつを食べたくて来ました」と愛知県外からお越しくださるお客さまもいらっしゃり、本当にありがたい限りです。
とはいえ、創業当初は決して順調ではありませんでした。チラシなどさまざまな広告を試しましたが、思うようにお客さまは増えず、苦戦が続きました。転機となったのは、タウン情報誌に掲載したクーポン付き広告です。広告を見て足を運んでくださった地元のお客さまに味を気に入っていただき、少しずつ常連として通ってくださるかたが増えていきました。地域のみなさまに支えられながら、お店の基盤が整っていったと感じています。
経営を振り返ると、大きな困難が二つありました。
一つ目は、創業間もない頃のことです。サラリーマン時代にとんかつ専門店で店長を務めていたこともあり、店舗運営にはそれなりの自信がありました。ところが、いざ自分でお店を経営してみると、集客や資金繰り、税務、従業員の採用・労務管理など、想像以上にやるべきことが多く、次々と課題に直面しました。思うように売上が伸びず、不安と焦りの中で試行錯誤を重ねる日々でした。それでも、課題を一つひとつ解決していくうちに少しずつ前に進むことができました。当時は言葉どおり寝る間も惜しんで働いていましたが、振り返ると、あの経験が今の自分を支える糧になっていると感じます。そんな中で心強かったのが、商工会議所の存在でした。担当のかたには親身になって相談に乗っていただき、多くの助言や情報をいただきました。さらに、商工会議所を通じて同業のかたがたとも知り合うことができ、多くの人とのつながりが励みになりました。こうした支えがあったからこそ、苦しい時期を前向きに乗り越えることができたと思います。
二つ目の困難は、コロナ禍です。一時休業を余儀なくされ、売上がぱったり途絶えた時期もありました。しかし、確かに経営に大きな影響はありましたが、不思議と強い不安は感じず、この時期を耐えれば必ず売上は回復するという自信がありました。これまでの数年間で積み重ねた経験が、自分の中で確かな支えになっていたのだと思います。良い商品を良いサービスで提供する。このことをしっかりとやってさえいればお客さまは離れていかないという自負がありましたし、実際にコロナの収束とともに客足は回復していきました。あのとき、「これまでの努力が自分を強くしてくれた」と実感しました。
創業当初は“どう集客するか”に頭を悩ませていましたが、今は“みんなが輝ける環境をどうつくるか”を考えるようになりました。
「お客さまに美味しいとんかつを食べていただきたい」という気持ちは、創業当時から変わりません。ただ、経営を続けていくうちに、「お店にかかわるすべての人を幸せにしたい」という思いが、年々強くなっていきました。お客さまの笑顔はもちろん、仕入れ業者や従業員の笑顔を守ることも、経営者として大切な責務だと感じています。特に、従業員がやりがいを持ち、いきいきと働ける環境をつくることが、今の私の使命です。人の成長こそが、お店の成長につながる-そう実感しています。
また、経営判断においては、結果に一喜一憂しないように心がけています。大切なのは、「なぜそうなったか」をしっかり振り返ることです。良い結果も悪い結果も、その理由を把握することで次の一手が見えてきます。根拠を持って判断し、経験を積み重ねていくことが、経営者としての成長につながると感じています。
創業当初に比べ、従業員も増えました。今後は、右腕となるようなスタッフを育てたいと考えています。自分の想いやノウハウを共有し、経営の考え方を理解して動ける人材が育ってくれれば、2店舗目の出店も現実的になります。
また、POSシステムなどのデジタル化にも取り組んでいます。業務を効率化することで生まれる時間を、スタッフのスキルアップやお客さまとのコミュニケーションに充て、“人の成長”につながるように取り組んでいます。
お店を持続的に発展させ、地域に長く愛されるお店を目指していきたいです。
創業当初は、思い描いたとおりにいかないことも多いと思います。ですが、最初からすべてがうまくいく人はいません。大切なのは、創業時の“熱い想い”を持ち続けることです。その想いがあれば、どんな困難でも必ず乗り越えられます。これは精神論ではなく、経営者としての覚悟だと思います。
また、困難の解決策は一つではありません。多くの人の意見に耳を傾け、柔軟に取り入れていくことも大切です。
最後に、私自身は創業して本当に良かったと感じています。経営を通じて多くの人と出会い、たくさんの経験を積むことができました。それらは何ものにも代えがたい財産です。